日弁連執行部は、民事裁判のIT化に関して、当事者本人がITを利用した本人訴訟ができるよう、弁護士会がサポートを提供しようとしています。2019年には「民事裁判手続きのIT化における本人サポートに関する基本方針」を定め、2022年5月20日には「民事訴訟法等の一部を改正する法律についての会長声明」を発し、「IT技術の利用が困難な本人訴訟の当事者をサポートする体制の整備」に取り組んでいくことを発信しています。
しかし、当事者本人にはIT利用を強制されていませんから、従来通りに紙を使った裁判ができます。それなのに「本人サポート」を提供してIT利用に誘導するときは、当事者本人は、サポート費用の負担、IT機器の不具合や操作ミスのリスク、電子的な通知を見落とすリスク等々、必要のない負担とリスクを負うことになります。これでは、弁護士会が消費者被害を作り出すようなものです。
日弁連は、2019年に「基本方針」を定めたときには「司法アクセスの充実や非弁活動の防止の点からも,この段階で基本方針を明らかにすることが必要」としながら、いまだに司法アクセスの充実や非弁活動防止のための方策も示していません。実際、日弁連が「本人サポート」を提供したからといって非弁活動を防止できるものではありません。むしろ、日弁連と他士業が競って「本人サポート」を広報して本人をITに誘導し、ITを利用した本人訴訟が増加すれば、それが非弁活動の温床になってしまいます。
また、日弁連は、「基本方針」を定めた際の理事会では、できる単位会ができる範囲でサポートを提供すれば良いとしていましたが、いまだに、どの単位会がどのようなサポートを提供できるのか等についての意見照会すらしていません。
弁護士や弁護士会にとっても、負担が増えるだけではなく、IT機器に習熟していない弁護士が、しかもサポートの内容すら曖昧なままに「サポート」を提供しようとすれば、弁護士の本来業務とまったく関係のないトラブルに巻き込まれます。また、弁護士会が「本人サポート」を提供し、他士業と競って広報するときは、ただでさえ減少傾向にある弁護士の訴訟業務がさらに減少します。
弁護士会が「本人サポート」を提供することは、弁護士にとっても国民にとっても不利益でしかありません。
日弁連は、直ちに政策を転換し、自らITを利用できない当事者本人が「サポート」を受けてまでIT利用する必要がないことを社会にアピールすべきです。
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