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<ともに日弁連を変えよう!市民のための司法をつくる会>

IT化等問題についての申入書

2020年4月30日

日本弁護士連合会

会長 荒 中 殿

ともに日弁連を変えよう!市民のための司法を作る会

代表 及川 智志

IT化等問題についての申入書

日頃は、会務運営にご尽力をいただき有り難うございます。

とりわけ、本年は、新型コロナウィルス感染症への対応の中での会務に、大変なご苦労を頂き、感謝申し上げます。次回理事会の議事事項の一つである民事裁判のIT化問題は、弁護士業務の根幹に関わる重要課題ですので、このような時期ではありますが、以下の通り意見を申し上げますので、慎重なご検討をよろしくお願いします。

第1 はじめに

「民事裁判のIT化」といいつつ、これにとどまらない動きになっています。

しかも、政府や与党関係のいろいろな会議体等が、司法を経済産業政策の観点から変えようとしていることに注意を要します。

日弁連は、これらの動きに流されず、「忖度」せず、司法の原則をおさえ、憲法の諸原則(「裁判を受ける権利」「裁判の公開」など)を重視し、「迅速」だけでなく「公正・適正・充実かつ迅速」でなければならないこと、直接主義、非弁問題、地域司法の観点なども重視する必要があると考えます。

また、司法のあり方、弁護士のあり方、裁判所のあり方に関わる極めて重要な問題であり、単位会や委員会の意見に十分に耳を傾け、会内民主主義を十全に保障することが執行部に求められています。

以上の観点から、現在日弁連で検討されているIT化意見書案について、その内容および進め方につき以下のとおり申し入れます。

第2 検討手続について

1 単位会及び関連委員会に対する意見照会は、2019年12月23日になされ回答期限は2020年2月末でした。年末年始をはさんだ極めて短期間で、しかも対象が膨大でした。単位会も委員会も全部の項目について検討を加えるのは困難だったと考えられます。

したがって、その中でも意見(回答)を寄せた内容は真剣なものであり、真摯に受け止める必要があると思います。しかし、重要な点について、IT化意見書案は、単位会や委員会の回答の多数意見を反映しているとはいえず、このままでは余りにも問題が大きいものとなっています。

2 理事が十分な検討ができるよう、そして単位会の意見をフィードバックできるよう、単位会と委員会の意見(回答)そのものを(PDFでよいので)全理事に事前配布されるよう申し入れます。

3 新型コロナウィルスのため、4月の理事会ではIT化意見書案は配布しただけで、5月7日、8日の理事会が初めての議論になります。しかもテレビ会議が予想され、深い議論ができるとは思えず、少なくとも6月の理事会まで継続審議にして、十分な検討・議論を保障することを申し入れます。

第3 IT化意見書案の内容について

1 「オンライン申立ての義務化等」について

⑴ 単位会や委員会の意見(回答)状況をふまえれば、日弁連の統一見解として 「最終的に甲案をめざす」にはなりえません。少なくとも甲案には反対であると修正されるよう申し入れます。

「ITサポート」にいくら言及しても、オンライン申立てが全面義務化されれば、現在のように紙であれば裁判を受ける権利を行使できる者の「裁判を受ける権利」を奪うことが避けられません。

また、士業者についても、単位会や委員会の意見(回答)状況では「丙案」を支持する回答が相当存在するのであり、日弁連の意見として丙案支持の意見の存在についても触れるべきと考えます。

⑵ オンライン申立と、訴訟記録の電子化は同一ではありません。

オンライン申立を義務化せずとも、必要な場合は訴訟記録の電子化は裁判所が行えばよく、それは裁判所の責任でもあります。「国民の裁判を受ける権利」の前には、「裁判所の負担」は甘受すべきものです。

⑶ 裁判を受ける権利は憲法上の権利です。

オンライン申請を原則的に義務づけることは、憲法上の裁判を受ける権利を直接的に侵害します。従って、日弁連は甲案に反対すべきです。

なお、本人訴訟の割合が低い諸外国においてさえ、オンライン申立てを義務化している国は少数にとどまるようです。アメリカの例では、逆に本人にはオンライン提出をさせない州もあるとのことです。

⑷ 諸外国の例を見ても、e提出について一定の期間をかけて制度・システムを構築しています。

裁判は、高度なプライバシーや企業秘密にかかわり、操作性・安定・安心・信頼できるシステム(情報セキュリティの面でも、利用度の面でも)の構築が必須です。それらがどうなるかも不明な段階で、まずオンライン義務化を法改正において議論するのはあまりにも時期尚早であり、あまりに無責任ではないでしょうか。

⑸ 紙によるメリット

紙には、電磁的データにはない利便性が存在します。そうした紙の良さを完全に捨て去ることは望ましくないばかりか、現実的ではありません。

⑹ 訴訟代理人

機器が故障した場合に提出できないという問題は、代理人が就任していても同じことですし、電磁的データにない紙のメリットも同様です。

なお、諸外国の例を見ても、韓国ではいまだ訴訟代理人に対しオンライン申立てが義務化されているわけではないし、訴訟代理人についてオンライン申立てが義務化されている国でも、導入の最初から義務化されたわけではありません。

⑺ 紙媒体併存の際に、記録を電子化する必要があるのであれば、紙媒体を電子化するのは裁判所の責任です。

韓国の例では、紙媒体で提出された場合、裁判所が無償で電子化しており、片面的電子訴訟の際に一方当事者から電子媒体で提出されたものを反対当事者が紙媒体で受け取りを希望する場合は、裁判所が紙代程度(1枚5円程度)でプリントアウトします(日本の場合は、一方当事者から紙媒体での副本提出を求めることが考えられます)。

⑻ 「本人サポート」では、裁判を受ける権利が侵害される者の発生を避けられません。しかも非弁問題の発生も不可避でしょう。

(9) eファイリングは、オンライン申立を義務化して実現すべきものではなく、システムを便利で使い勝手のよいものにするなどして利用者を誘導して実現すべきものではないでしょうか。

3 特別訴訟手続について

⑴ 「賛成できない」ではなく、「反対である。」とし、さらに「検討するのであれば・・・」以下の3行は削除することを、申し入れます。

⑵ 「検討するのであれば・・・」のような抽象的な条件を述べることは、そのような抽象的な条件をみたせば日弁連がこの制度の創設に賛成するとのメッセージと取られてしまいます。

⑶ 単位会と委員会の意見(回答)の多数意見は、「反対」です。

この多数意見を真摯に受け止め、「反対である」と明記すべきです。

⑷ 意見書案の「1 立法事実及び立法目的」の項は、削除すべきです。少なくとも裁判迅速化法問題対策委員会の意見(回答)をふまえるべきです。

同項では、最高裁の迅速化検証報告書を引用し、「依然として短期間で裁判が終了する状況にはない。」とした上、「前記の事実をもとに迅速化のための立法政策を検討することには問題がない。」としていますが、前提および評価が違っています。

日弁連は、裁判迅速化法の制定過程で、1条に「司法を通じて権利利益が適切に実現されることその他の求められる役割を司法が十全に果たすために、公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行なわれることが不可欠である」と修正をかちとり、衆参両院とも付帯決議も挙げられ、同法が基盤整備法であることも確認されました。

司法が役割を果たすためには、「公正・適正・充実した手続のもとで」迅速に行なわれるべきであることを、法律の明文の規定で確認しているのです。

上記の観点から、意見書(案)の理由1項(立法事実及び立法目的)の箇所で、「迅速化のための立法政策を検討することには問題がない」と表現することは誤りであり、賛成できません。「公正・適正・充実」の観点が不可欠です。

(5) なお、最高裁は、提案を通しやすくするためと思われますが、「双方に訴訟代理人がついている場合」という提案にしました。しかし、IT化研究会の議論の中でも、そのような場合に限定する必要はないのではとの発言があり、本年4月に出版された日司連編集の「裁判IT化がわかる!」との本の中で、「特別な訴訟手続」の項目でわざわざこの意見に触れており、「引き続き検討される予定です。」としています。

さらに同書籍の「本人サポート」の項で「司法書士や日司連が、ITを含め、本人訴訟をサポートします」と、強くアピールしています。

「双方に訴訟代理人がついている場合」に限定されるかどうかは不明であるにもかかわらずこれを前提に議論をすることは大変危険です。

4 照会原案で触れられていなかった事項

照会原案でIT化研究会報告書の多数の項目の中で言及されなかった項目が存在することについて、それでよいのかと問題提起している意見(回答)があります。

あるいは、会内で検討が不十分な項目や意見が分かれる項目などがあるのに、日弁連としての統一見解のように取られる意見書を、わざわざ法制審の民訴法部会の初めの段階で提出すべきではない、とする意見(回答)もあります。

これらの意見(回答)が問題提起している視点は今後も重要と考えます。

5 弁論準備手続、口頭弁論期日など

⑴ 照会原案もIT化意見書案も、弁論準備手続についてのみ言及し、口頭弁論期日については言及しなかったので、単位会・委員会の意見(回答)も口頭弁論期日についての検討をしたものはごくわずかです。

⑵ 裁判手続は、双方当事者が出頭することが原則であるという原則論をおさえる必要があります。

諸外国でも、e法廷から始めている国はなく、直接主義を重視しています。

また、ウェブ会議は録音録画が容易である問題、非弁など第三者の介入の懸念、非公開手続である弁論準備手続の非公開性の確保の問題、裁判所・裁判官の訴訟指揮権の問題、地域司法の観点の問題等もあります。

6 証人尋問等について

諸外国でもe法廷から始めている国はありません。現状でもe法廷を実施している国は少数です。

しかも証人尋問等の場面では、憲法上の裁判の公開原則があります。

証人尋問をオンラインでやる場合の要件について、遠隔地要件など現行法の要件(民事訴訟法204条)を緩和して、「当事者に異議がない場合であって、相当と認めるとき」といったあたかも裁判所の判断に委ねるかのような改正には反対すべきではないでしょうか。

7 判決の公開

ほぼすべての判決が「インターネットで公開され閲覧される」とした場合、高度なプライバシーや企業秘密などの保護の観点と、判決の公開をどう考えるかについては、会内でもさまざまな意見があると考えられます。

8 秘密保持命令の制度の創設

この制度についても、憲法21条との関係、弁護活動に支障をきたす懸念や、関連事件等における利用に支障をきたす懸念もあります。客観的な根拠に基づく具体的な立法事実が明らかにされていると言えるのか、また秘密保持の範囲や構成要件が曖昧ではないか、刑事罰を設けるとの提案はどうなのか等々、会内でもさまざまな意見があると考えられます。

従来、日弁連は、文書提出命令の拡充(自己利用文書といった非開示要件の廃止など)をすることを前提に秘密保持命令制度の創設を論じてきていますが、今回のように証拠提出の拡大を前提としない秘密保持命令のみの創設は問題があるのではないでしょうか。

9 意見書案に記載のない事項

公示送達の方法の見直し(報告書第4の3)について
インターネットでの方法で公示送達を行なうようになると、ネットの世界で裁判の被告になったことが流布される恐れもあります。被告のプライバシー保護の点で重大な懸念があり、反対するとの意見を述べるべきです。

以上

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