声明・申入

法テラス特措法案に関する要請書

2020年 7 月 14 日

日本弁護士連合会 理事 各位

「ともに日弁連を変えよう!市民のための司法をつくる会」 (変えよう!会)

代 表 及 川 智 志

当会は、 日弁連が負っている重要な社会的責務を果たすために必要な研究 、情報及び意見交換、政策提言その他の諸活動を行うことを目的として弁護士の有志で作られた団体です。本年 6月12日 に「新型コロナウイルス感染症等の影響を受けた国民等に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律案」(以下、「 法テラス特措法案 」という。) が野党共同会派から衆議院に提出され、現在、継続審議となっておりますが、この法案提出にあたり日弁連からの要請があったことが明らかとなっています。

同様に自民党の「国民とともに司法改革を推進する議員連盟」に対しても同趣旨の要請がなされています (「経済財政運営と改革の基本方針2020への要望について」 2020 年 5 月 26 日) 。 この点に関連して、本年7月10日付けで、日弁連会員専用ページ内において、「会員の皆様へ(2)」と題するコメントが日弁連会長名で発出されておりますが、ここでの説明 は 、日弁連が新型コロナウ イ ルス問題への対応として法テラスとの関係で働きかけるべき内容としては不適切なものとなっていると思われます。各理事におかれましては、この問題を是正すべく日弁連理事会等において下記の働きかけをとっていただきたく要請する次第です。

第1要請の内容

日弁連として、上記の政党への要請を公式に撤回するか、これを維持するのであれば、法テラス特措法が適用される代理援助については、従来の法テラスの報酬基準を修正し、弁護士については旧日本弁護士連合会 報酬等基準に見合った報酬の立替払いを受けて 確保できるようにし、利用者には従来の法テラスの報酬基準の範囲内での償還額を適用するとともに、その差額については国費負担で対応するよう新たに各政党に法案の修正を要請することを、理事の立場で働きかけていただきたく要請します。

第2要請の理由

1 上記、法テラス特措法案については、 法テラスの援助要件を緩和し 、 新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置に起因する紛争に関して、 従来の資産要件に該当しなくても 、 新型コロ ナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置の影響により「収入の著しい減少」があった者が援助を受けられるとし、 具体的な基準については「半分程度の減収」を
想定しているとされています。

2  この要件拡大は、法律相談のみではなく代理援助にまで及ぶものとなっているところ、新型コロナウイルス感染症の直接的影響のみではなくその措置の影響までを対象とすることから、極めて広範囲の法律問題が新型コロナ問題に結びつけられて代理援助の対象として各地の弁護士の元に持ち込まれ、その結果、従前からその報酬基準が実際の業務量に比較して低廉すぎることが問題とされていた法テラスの報酬基準に基づいて多数事件を処理することを各弁護士が要請されることとなります。これは、これまで低所得等貧困のため法律的支援を受けられない社会的弱者のためのボランティア的制度であった法テラスの民事法律扶助の制度を、新型コロナウイルス問題に関しては法人個人を問わず国民全体に広げ、さらなるボランティア的活動を弁護士全体に強いる意味を持つものとなっています。

3  この点、日弁連執行部は、「会員の皆様へ(2)」と題するコメントにおいて、上記政党への要請の存在については内容を明確にしないまでも認めた上で、「今回の新型コロナウイルスの感染症の拡大に伴う事態について、『災害』としての側面を有していると考えております。しかも、過去に経験したことのない未曾有の事態であることを踏まえ、やはり未曾有の大災害であった東日本大震災の際、被害者救済のために制定された特例法を、今回の事態でも国民の救済のために応用できないかと考え、そのことをひとつのアイデアとして各政党に紹介いたしました。
その中には、総合法律支援法第30条第2項に基づく委託事業の活用などのアイデアも含まれています。」と説明し、この「災害被害者」のための扶助要件の緩和等のアイデアは、日弁連の宣言・決議や会長声明と整合するものと述べています。

4  しかしながら、今回の新型コロナウイルス問題について、日弁連は、これまで会長声明等において対外的には新型コロナウイルス問題を「災害」であると明確に宣言しない立場を継続しています。日弁連理事会内に本部が設置されているCOVID-19対策本部についても、日弁連「全国弁護士会災害復興の支援に関する規定」の第2条の「災害」の定義において「感染症のまん延」が例示されているにも関わらず、同規程第4条に定める「日弁連災害対策本部」として設置されたものではありません。現時点において、新型コロナウイルス問題については、「日弁連災害対策本部」は設置されていません。
また、日弁連は、新型コロナウイルス問題について唯一の日弁連の統一的な活動であった無料電話相談について本年7月22日をもって打ち切り、その後は各地の弁護士会で独自に相談体制を整えるように要請しています。
これらの日弁連の姿勢に対しては、およそ一般的な「災害」対応とは異なることから、日弁連が何故に新型コロナウイルス問題を「災害」であると明確に宣言しないのかについて、本年6月24日のCOVID-19対策本部コアメンバー会議で問題とされ、その後の議論の対象となりましたが、日弁連執行部の説明からは、「自然災害」は一部地域である(被災地弁護士会と支援弁護士会がある)のに対して、「新型コロナウイルス問題」は全国すべて(全てが被災地弁護士会)であるため、これまでの日弁連が想定してきた「災害」とは異なる認識を持っていることが窺われたという報告もあります。
上記の日弁連の対応状況からすれば、「会員の皆様へ(2)」における「災害被害者」のための扶助要件の緩和等のアイデアは、日弁連の宣言・決議や会長声明と整合するものとの説明は、事実に反します。「新型コロナウイルス問題」は、日弁連において未検討の問題であるというのが正しく、従来の日弁連の宣言・決議や会長声明の範囲内の活動として、会内議論を経ずに対
外的に要請活動を行うことが許されるとは判断できないことになります。

5  このような新型コロナウイルス問題の特殊性を前提とするならば、上記の日弁連による各政党への要請活動は、これがまさに一部地域の被害に止まる「自然災害」とは異なり、全国すべてが被災地であり、法テラスの代理援助を担うべき各地の弁護士も被災者であることから、被災者である弁護士に更なるボランティアを事実上強制する効果を持つものといえます。「災害」の側面を持つから、当然にこの特例措置が認められるというのは、現在、各地の弁護士が置かれている経済的状況をあまりに軽視するものです。
「会員の皆様へ(2)」の前半では、「全会員宛てWebアンケートの回答において、緊急事態宣言の中で業務が著しく制限されたことなどから事務所経営に支障をきたしているとのご回答があるなど、新型コロナウイルス感染症の蔓延が弁護士業務にも著しい影響がうかがわれました。」とされており、そのことを認める以上、上記政党要請が持つ問題性について真摯に反省するべきです。

6  日弁連として、真に新型コロナウイルス問題の「災害」の側面を重視し、これに対する弁護士会会員の協力を求めるのであれば、上記のような独断的なボランティアの強要と受け取れる行動をとったことを反省してこの要請を撤回するか、協力した弁護士が自らも被災者でありながらボランティアとならないような収入面の支援が必要と考えられます。

7  これまで法テラスの報酬が旧日本弁護士連合会報酬等基準より低額であることを多くの弁護士が受け入れてきたのは、増大しない法律支援予算のなかで経済的弱者が司法を利用しやすくするためのやむを得ない措置として、またその対象が低所得者に限られていることからです。
限られた対象者であったことから、弁護士もボランティアとして法テラスの業務を受け入れることができたのです。
ところが、今回の新型コロナウイルス対策のように、所得制限がなく対象者が限定されなくなり、また中小企業(資本金3億円以下、従業員300人以下)も対象者に含むなど、新型コロナにより被害を受けた国民全般に及ぶ内容になってくると、これまでのような弁護士のボランティア精神により支えられ許容されてきた従来の法テラス報酬基準を適用することは、自身がコロナ禍で被害を受けてきた多くの弁護士にさらなる経済的苦境を強いることになります。
所得制限なしに国民一般に法テラスの支援を及ぼそうとするのであれば、弁護士報酬は旧日本弁護士連合会報酬等基準に依拠した金額とすべきです。
他方、わが国のような償還制の法律扶助制度では(外国では給付制が多く、この点がわが国の法律扶助制度の遅れを示している)、弁護士費用を高くすることは利用者の償還金額の高額化をもたらすことになるので、国民の理解が得られない恐れがあります。
仮に所得制限の要件を置かないで広く一般国民が利用出来る制度とするのであれば、旧日本弁護士連合会報酬等基準を適用した報酬とすべきであり、それにより利用者の負担が増加することがないようその差額を国庫負担とすべきです。日弁連は、せめてそのための取組みを併せて進めるべきです。

以上から、日弁連の意思決定機関を担い、各地の弁護士の現状をその政策に反映できる立場にある理事の皆様に対して要請を行うものです。

以上