政策のご案内

2 誰でも受験することができる司法試験にする(法科大学院を要件としない制度に)

(1)法科大学院に入学するためには、多額の入学金や学費に加え生活費が必要になります。奨学金制度もありますが、全員が受けられるわけではありません。また、法科大学院の近くに住んでいなければ、通学できないため、家族の生活費まで必要になる場合もあります(全国で入学者を募集している法科大学院があるのは14都道府県だけです)。

法科大学院の単位取得はとても大変で、予習と復習、単位取得のための試験勉強等に追われ、アルバイトをする時間も基本書を体系的に読み込む等の時間を捻出するのも至難の業です。

また、法科大学院は、あくまでも「大学院」なので、大学卒業資格がなければ進学できません。他にも様々な要因(居住地、仕事、家庭責任等)で入学に困難を抱える人も多いのです。

法科大学院の司法試験合格率が大学の至上命令となっているので、人も金も法科大学院に集中させられており、学部の空洞化も目立っています。

弁護士の激増で経済的基盤が失われたこと等により、2018年の法科大学院の入学者数は1621人に止まりました。これは、2006年の入学者数5784人に比べると約28%にすぎず、この間、法科大学院の入学者数は3分の1以下まで激減したことになります。

2004(平成16)年に法科大学院構想が実現に移されてから15年が経過していますが、すでに、さまざまな歪みが生じ、74校あった法科大学院のうち39校の法科大学院が廃止されるか学生の募集停止をしており、2019年8月現在で学生の募集をしている法科大学院は35校にすぎません。

この点からも法科大学院制度の失敗は明らかです。

そもそも、法曹は自由と正義に仕える仕事ですから、その資格試験としての司法試験は、誰でもどこでもいつまでも公正に受験できる試験であるべきです。とすれば、金と時間がない者を不利に扱い、受験資格を制限する法科大学院制度には、治癒しがたい根本的な欠陥があります。

(2)法科大学院制度の失敗が繕えなくなり、政府は、ある程度は、法科大学院の制度改革を進めています。

しかし、政府の進める制度改革は、これまでの法科大学院の理念とされていた、①独立性、②公平性と開放性、③多様性を捨て去ってしまいました。すなわち、①法科大学院を大学の学部と一体化し、②自大学または協定大学の学部生を優先的に合格させる差別待遇を認め、③法学系課程以外の出身の者または実務経験者の割合を「3割以上」と定めた文科省告示を撤廃してしまいました。これでは、法科大学院制度の温存だけを目的とした、間違った制度改革と批判されてもやむを得ないのではないでしょうか。

政府の進める制度改革は、むしろ、法科大学院制度の弊害をさらに深刻化させる懸念すらあります。たとえば、「5年一貫コース」(法学部3年+法科大学院2年の法曹養成コース)では、幼少時からエリート教育を受けた裕福な家庭の出身者、大学入学時または学部早期に法曹を志望する学生、概して優等生が法曹になりやすくなる反面、そのようなメインルートに乗れない学生が法曹になりにくくなるのではないでしょうか。それは、法曹の多様性を決定的に損なわせることにならないでしょうか。失敗続きだった未修者教育を具体的にどのようにすれば改善できるのかについても全く処方箋が示されていませんから、この点でも法曹の多様性はさらに損なわれてしまうのではないでしょうか。それでもなお、こうした制度改革を進めるというのであれば、法曹の多様性を確保するため、予備試験制度を拡充するべきではないでしょうか。

また、「ギャップターム」解消との名目で法科大学院在学中に司法試験受験を認める(ただし、司法修習の要件としては、法科大学院修了が必要)との法科大学院改革も進められています。「ギャップターム」とは、3月に法科大学院修了した直後に司法試験に合格しても、同年4月から司法研修所が始まる11月までの間のことをいうのだそうです。このギャップの解消のためとはいえ、在学中受験を認めることは、以下のとおり、法科大学院制度自体の否定というべきものです。

そもそも司法試験は、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする」(司法試験法1条1項)ものであり、「法科大学院……の課程における教育……との有機的連携の下に行うものとする。」(同条3項)とされています。つまり、法科大学院在学中に司法試験の受験資格を認めるということは、法科大学院の課程を修了していない者に「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうか」を試す機会を与えることになってしまいます。これでは、法科大学院の趣旨・理念に決定的に反します。

また、このように法科大学院のカリキュラムの中途で司法試験の受験を認めることになれば、出題範囲を狭くし、問題の難易度も落とすなど、司法試験がいまよりさらに簡単になるという、本末転倒の事態を招くおそれがあります。それで国民の人権を擁護するための基礎的素養が身についているかどうか、適正に判断できるのでしょうか。こうした疑問にもかかわらず、日弁連は、「ギャップターム」解消についても、法科大学院の生き残り策の1つとして容認しています。

(3)法科大学院の、適性試験受験者はピーク時の10分の1以下になり、前記したとおり、入学者数は2006年の5784人から2018年度の1621人まで減少しています。つまり、法科大学院は全く人気がありません。

これに対し、予備試験の出願者は1万3000人を超え、受験者は1万人を超えています。つまり、いまの法曹志願者は予備試験人気に支えられています。

とすれば、法曹志願者を増やすべきというのであれば、法科大学院制度を縮小し、予備試験制度を拡充するのが、最も効果的ということになるのではないでしょうか。

(4)しかしながら、日弁連は、いまだに法科大学院を法曹養成の中核と位置づけるとともに、政府の方針には従順です。

たとえば、日弁連は、「未修者3割以上」基準を撤廃する文科省告示の「改正」についてすら、「やむを得ない」との意見書を提出しています。同基準を撤廃すれば、多様性確保の要請に応えられるのか、重大な懸念が生じます。このような法科大学院の理念に反する「改正」についてすら、日弁連は反対していないのです。

(5)「法科大学院ありき」という改革ではなく、国民のためによりよい法曹養成を実現するという観点から、抜本的な改革を検討するべきです。日弁連は、法科大学院を法曹養成の中核とするとの従来の方針を改め、司法試験を「統一・公平・平等」という本来の姿に戻し、法科大学院と司法試験の受験資格を切り離して、法科大学院に入学しなくても司法試験を受験できるような制度改革を、政府に対し求めるべきです。

そのような制度改革が実現し、誰でもいつでも司法試験を受験することができるようになれば、予備試験は、その役割を終えて廃止されることになります。

なお、こうした制度改革が実現されるまでは、予備試験は司法試験への制限の無い「公正・平等」なルートとして、大切な意味を持ちますから、日弁連は政府に対し、予備試験合格者が法科大学院修了者よりも司法試験受験において不利益に扱われている不合理な現状、たとえば、予備試験の合格者数が司法試験合格率に比して少ないといった現状の是正を求めるべきです。