政策のご案内

1 司法試験の年間合格者は1000人以下

(1)政府は、司法試験の年間合格者数を1500人以上とする、との法曹人口政策を維持しています。これを日弁連も受け入れています。

全国の弁護士数は、2003年は約2万人でしたが、いまは4万人を超えました。全国の裁判所の新受件数は、ピーク時の2003年には607万0201件でしたが、2018年には362万2502件に激減しています。弁護士は倍増して、事件数は4割減です。

訴訟以外の「潜在的需要」の掘り起こしも思うようには進んでいません。企業内弁護士などの新たな法曹需要も、弁護士の急増を吸収するだけの規模ではありません。

弁護士激増により、弁護士の所得低下が急激に進みました。弁護士センサスによれば、弁護士の所得の中央値は、2006年には1200万円でしたが、2018年には650万円とほぼ半減しました。弁護士は、福利厚生に乏しく退職金もなく年金も国民年金が基本の自営業者が中心ですから、その経済基盤は脆弱化していると言わざるをません。国税庁の統計によれば、赤字の弁護士が約7000人もいます。

(2)新人弁護士については、日弁連のアンケート結果によると、6割以上が年俸480万円以下、2割以上が年俸360万円以下という収入状況が定着しています。ここから奨学金や貸与金や税金や健康保険料や年金を支払い、弁護士会費を支払うとすれば、弁護士としての自立どころか、結婚して家庭をもつこともなかなか難しいという状況になっています。

給費制廃止違憲訴訟が闘われていますが、同訴訟で提出された陳述書にも、苦境を訴えるリアルな叫びがありました。新65期から69期のアンケートへの回答にも、「貸与世代同士で結婚しましたが、夫婦合わせて現在約1200万円ほどの借金があります。現在妊娠中で、しばらく休業しなければならないため、今後どうなるか本当に心配です。」といった悲痛な訴えが見られます。

弁護士に経済的な余裕がなくなり、弁護士の数は増えたけれども、公益

的活動の担い手が逆に減っているのではないかと思われる分野もあります。もちろん、弁護士としての志高く、いわば清貧に生きる弁護士もいます。

しかし、そうした「超人」のような弁護士に期待するのでは、弁護士会

を持続していくことはできないと思います。弁護士会の全体の状況を見れば、弁護士激増によって、ビジネス化の波が押し寄せ、これに乗れない弁護士が淘汰されつつあるのではないでしょうか。経済的利益の配慮が人権擁護の要請に優越するようになってはいないでしょうか。また、過剰なビジネス化により、人権擁護のための制度であるはずの弁護士自治が破壊されつつあるのではないでしょうか。

(3)日弁連が実施した「第69期の弁護士就業状況アンケート集計及び分析結果」の自由記載欄ならびに第70期に対する同様の日弁連アンケートの自由記載欄には、さまざまな声が寄せられています。以下、弁護士人口問題に関連する声を中心に紹介します。なお、弁護士の労働条件問題の項(ブラック事務所対策)でも、悲痛な叫びと厳しい意見を紹介します。

「とにかく、新規登録弁護士が多すぎ、業界として受入余力がないので、待遇が下がってしまっている。職域の急激な拡大が不可能であるのならば、新規登録を減らす方向で対応するしか、待遇改善の道はない。弁護士会としては、新規登録数減少へ動いてほしい。」、「弁護士の収入が減り、資格の魅力がなくなっている。司法試験合格者数の削減など具体的な措置が取られない限り、安心して今後もこの仕事を続けていけるか分からない。」、「就業状況を改善するために、司法試験合格者数を年500人にすべきである。1000人などはまだ甘いと感じる。」、「私は50代のサラリーマンで修習前の会社のインハウスになった。同期の弁護士の話を聞いていると、一部上場企業ではありえない劣悪な労働条件である。このあたりを見直さないと、若い人たちはいずれ法曹を目ざさなくなると思う。」、「ハラスメント及び、給与不払い等についての調査、公表を行ってほしい。」といった、悲痛な叫びと、厳しい意見がたくさん寄せられています。

こうした若手弁護士の現状と意見を真剣に受け止めるべきではないでしょうか。これを受け止められず、このまま日弁連が変わらなければ、弁護士会が崩壊してしまいかねないのではないでしょうか。

(4)2006年度には5784人であった法科大学院の入学者数が2018年度には1621人まで減少し、2004年度には4万3367人であった司法試験受験者数が2019年度には4466人まで減少しました。司法試験制度が変わっているので単純比較はできませんが、予備試験の受験者数が1万人程度であることを勘案したとしても、法曹の魅力は加速度的に低下しているといわざるを得ません。これも、弁護士を激増させた司法「改革」の結果です。

このまま弁護士増加政策が継続されれば、弁護士と弁護士会の変質、弁護士自治の崩壊は免れないでしょう。弁護士と弁護士会は、日本国憲法と弁護士法のもと、戦後70年余、わが国の人権擁護の担い手であり続けました。このまま弁護士人口が増え続け、弁護士と弁護士会が変質し、弁護士自治が崩壊してしまえば、在野における人権擁護の担い手が失われてしまいます。

 

(5)司法試験合格者年間1500人を続ければ、弁護士人口は現在(2019年12月、72期一斉登録時点)の約4万2000人から、2050年には約6万3300人となります(日弁連のシミュレーション。このシミュレーションは、70歳で死亡または引退することを前提とする「甘め」の予測です)。他方、日本の人口は現在の約1億2600万人から、2050年には約1億0200万人に減少し、弁護士1人あたりの国民数は、約3000人から約1600人となり、ほぼ半減します。

弁護士が扱う主な事件は、基本的に人と人の紛争である以上、人口が減少すれば紛争も減少することになりますから、法的需要は今後急激に減少していくと予想されます。この観点からも、司法試験合格者を減員するのが相当ということになるはずです。

(6)日弁連の「法曹人口将来予測」は、おおむね、2020年を基準として、10年後の2030年には弁護士人口が1万人増えて5万人を突破し、20年後の2040年には弁護士人口がさらに1万人増えて6万人を突破するというものです。

司法改革が始まる前の司法試験合格者数はおおむね年間500人程度でしたから、司法試験の年間合格者数が1500人の場合には、毎年1000人ずつ弁護士が増えることになる予測です。この場合、北海道弁護士会連合会(4弁護士会)、東北弁護士会連合会(6弁護士会)の各弁連の会員数が1000人程度ですから、毎年、北弁連または東北弁連が1つずつ増える程度に弁護士が増えていくことになります。

司法試験の年間合格者数が年間1000人でも、毎年約500人の弁護士が増えることになります。この場合、仙台、静岡県、広島の各弁護士会の会員数が500人前後ですから、毎年これらの弁護士会に匹敵する弁護士が増えていくことになります。

もちろん新たな弁護士需要を考える必要もあります。しかし、企業と自治体を合わせた組織内弁護士の新規需要は毎年200~300人で推移しています。この新規需要を考えたうえで、司法試験の年間合格者数を年間1000人とすると、組織内弁護士以外で、毎年200~300人の弁護士が増えていくことになります。この場合、福島県、栃木県、茨城県、群馬、長野県、新潟県、岐阜県、熊本県、鹿児島県、沖縄の各弁護士会の会員数が200~300人ですから、毎年これらの弁護士会に匹敵する弁護士が増えていくことになります。

このように、司法試験年間合格者1000人は決して弁護士減員策ではないのです。そして、前記したとおり、すでに弁護士激増の結果として深刻な弊害が生じていることを考えると、年間200~300人を超える増加は、もはやとうてい容認できないのではないでしょうか。

このままで、弁護士は生き残れますか? 奨学金や修習貸与金を返済しながら、安心して、生活できますか? 家庭が営めますか? 在野精神を堅持して基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を全うすることができますか?

いまこそ、「1500人からの更なる減員については検証した上で」という現在の日弁連の立場を改めるべきです。

(7)司法試験の年間合格者数として1000人以下を求めることについては、弁護士会内で広く合意を得ることができるはずです。

日弁連は、司法試験の年間合格者数を1000人以下とするべきとの方針を打ち出し、政府に対し、司法試験の年間合格者数を1000人以下とするよう、強く求めるべきです。これにより、弁護士需給のバランスを改善し、弁護士の所得が急激に低下している現状や、弁護士が自由と正義のための仕事をしにくくなっている現状を打開し、弁護士の職業的魅力、弁護士の夢とプライドを取り戻さなくてはならないと考えます。

(8)ところで、日弁連(宇都宮執行部時代)が2012年3月15日に発した「法曹人口政策に関する提言」は下記のとおり提言していました。

司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである。

この点、同提言は、「まず1500人にまで減員し」、「更なる減員については…対処していくべきである」としたうえ、実は、この後の部分で、年間合格者数1500人の場合だけでなく、同1000人の場合についても、法曹人口のシミュレーションを示しています。これは、当時、同提言を検討していた「法曹人口政策会議」において、1000人以下を求める意見も強かったことから、将来的には1000人以下を求めることもあるとのメッセージを含ませたものです。

つまり、当時の同提言の起案者の説明によれば、「まず」とは「直ちに」を意味するとのことでした。そして、将来的な4万~6万人といった法曹人口の数字、同1000人の法曹人口シミュレーションを敢えて主文に盛り込んだのは、「1500人にまで減員し」ても、法曹人口が激増していくという危機感を表し、それを前提として「更なる減員」に向けた含みを持たせたものでした。

同提言から4年後、2016年3月11日の日弁連臨時総会決議では、「まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」とされ、主文から「更なる減員」が除かれましたが、これは、同提言を何ら変更するものではないとの説明が日弁連執行部から繰り返されました。

よって、同提言が発出された2012年以降、さらに深刻化した弁護士激増のさまざまな弊害を考えれば、日弁連が司法試験年間合格者数1000人以下を求めることは、これまでの日弁連の法曹人口政策に沿ったものでもあるはずです。

(9) いまこそ,日弁連は,司法試験の年間合格者数を1000人以下とするべきとの方針を打ち出し,政府に対し,司法試験の年間合格者数を1000人以下とするよう強く求めるべきです。

司法試験の年間合格者数1000人以下を実現するためには,全国の弁護士から広く意見を集約し,全国の弁護士と弁護士会が一丸になって運動を展開することが必要不可欠です。

具体的には,まず,直ちに,日弁連に「法曹人口問題緊急対策本部」を作ります。そのメンバーは各単位会と各弁連から少なくとも1人を選出します。院内集会と単位会における集会を繰り返し開催します。広範な市民団体と強力に連携します。地方議会で司法試験合格者1000人以下を求める意見書をあげてもらいます。私たちには,弁護士費用敗訴者負担制度阻止,貸金業法改正,給費制1年延長,修習給付金創設等々の成功体験があります。それらの成功体験を生かして,やれることを全てやりきります。ですから、私たちが先ほどのような運動を本気で展開すれば司法試験合格者1000人以下を必ず実現することができます。できると信じて全力を尽くします。

司法試験の出願者激減にもかかわらず,政策目標である司法試験合格者数「1500人」が4年間も墨守されているいまだからこそ変えなくてはならないし,変えることができるのではないでしょうか。